三段重のおせち

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そもそもなぜ分ける?重箱の「段数」に込められた意味と基本構成

おせち料理といえば、四角い漆塗りの箱が積み重なった姿が印象的ですが、なぜわざわざ「段」に分けて詰めるのでしょうか?

「見た目が豪華だから」という理由ももちろんありますが、そこには古来より日本人が大切にしてきた「縁起」への願いや、和食文化特有の「コース料理」の概念が深く関係しています。まずは、おせち料理の骨格とも言える重箱の基本構造について、歴史的な背景も含めて紐解いていきましょう。

「福を重ねる」重箱の本来の役割と歴史

おせち料理を重箱に詰める最大の理由は、「めでたいことを重ねる(福が重なる)」という縁起担ぎにあります。

新しい年を迎えるにあたり、良い出来事は一度きりではなく、二度、三度と続いてほしいものです。重箱を縦に積み重ねる行為そのものが、幸せが積み重なっていく様を表現しており、お正月というハレの日にふさわしい「願いの形」なのです。

歴史を振り返ると、平安時代の宮中行事「御節供(おせちく)」が起源とされていますが、当時はまだ重箱ではなく、高いお膳(高杯)に料理を盛り付けていました。現在のような重箱スタイルが庶民に定着したのは、江戸時代の後期から明治時代にかけてと言われています。

また、重箱には実用的なメリットも多くあります。冷蔵庫がなかった時代、蓋をすることで料理を乾燥や埃、虫から守り、保存性を高める役割を果たしました。さらに、四角い形状は収納しやすく、お客様に振る舞う際も蓋を開けるだけですぐに豪華な食卓を演出できるため、年末年始の忙しい主婦(主夫)にとっても合理的な道具だったのです。

「完全な形」は五段重?現代の三段重との違い

デパートやスーパーで見かけるおせちの多くは「三段重」ですが、実は本来の正式な形は「五段重」であることをご存知でしょうか。

日本古来の陰陽道では、奇数は縁起の良い「陽」の数字とされています。「1・3・5・7・9」の中でも、「5」という数字は区切りが良く、お祝い事において好まれる数字でした。そのため、伝統的なおせち料理は五段重ねが基本ルールだったのです。

しかし、時代が進むにつれて核家族化が進み、ライフスタイルも変化しました。「五段分も作るのは大変」「食べきれない」という事情から、現代では一の重、二の重、三の重に内容を凝縮した「三段重」が主流となっています。最近ではさらにコンパクトな「二段重」や「一段重」も増えていますが、正式な五段重を簡略化したものが現在の三段重であるという背景を知っておくと、詰め方の理解がより深まります。

各段は「フルコース」の順序を表している

重箱の段数は、単なる「入れ物」の区分けではありません。実は、日本料理の「会席料理(コース料理)」の流れを表現しています。

会席料理では、「前菜」から始まり、「吸い物・刺身」、「焼き物」、「煮物」という順番で料理が提供されます。おせち料理もこれと同じ構成になっており、上から順に以下のような役割を持っています。

  • 一の重:前菜・お酒のつまみ(祝い肴・口取り)
  • 二の重:メインディッシュ(焼き物・酢の物)
  • 三の重:お腹を満たす煮込み料理(煮物)

つまり、重箱を上から順に開けて食べていくことは、フルコースを順番に味わうことと同じ意味を持つのです。適当に空いている場所に詰めるのではなく、「どの段がコースのどの部分にあたるのか」を意識することで、それぞれの料理の役割がはっきりと見えてきます。

【完全保存版】一の重・二の重・三の重に詰める料理とそれぞれの意味

ここからは、現代の主流である「三段重」をベースに、各段に詰めるべき料理とその意味を詳しく解説します。

一つひとつの食材に込められた願いを知ることで、お正月の食卓での会話が弾むだけでなく、新しい一年のスタートをより心豊かなものにできるはずです。

【一の重】祝い肴・口取り(前菜・甘味)

一番上の段である「一の重」は、お正月に家族が集まって最初に箸をつける段です。

ここには、お酒のおつまみとなる「前菜」や、子供も喜ぶ甘い「口取り」を詰めます。中でも特に重要なのが、「祝い肴三種(いわいざかなさんしゅ)」と呼ばれる3つの料理です。これさえあればお正月が迎えられると言われるほど、おせち料理の核心となる存在です。

1. 黒豆(くろまめ)

真っ黒に輝く黒豆には、「邪気払い」の意味とともに、「日焼けして真っ黒になるまで、マメ(勤勉)に働き、マメ(丈夫)に暮らせますように」という健康と労働への願いが込められています。

2. 数の子(かずのこ)

ニシンの卵である数の子は、無数の卵が集まっている姿から「子孫繁栄」を象徴する縁起物です。「二親(ニシン)から多くの子が生まれる」という語呂合わせの意味もあります。

3. 田作り(たづくり)

カタクチイワシの稚魚を甘辛く煮絡めた料理です。昔、イワシを田んぼの肥料にしたところ大豊作になったことから、「五穀豊穣」を願う象徴となりました。「ごまめ(五万米)」とも呼ばれます。

その他の口取り

一の重には他にも、学問成就を願う巻物のような形をした「伊達巻(だてまき)」や、黄金色で金運上昇を願う「栗きんとん」、紅白の色合いがおめでたい「紅白かまぼこ」などが詰められます。これらは見た目が華やかで甘い味付けが多いため、子供から大人まで楽しめる「おせちの顔」となる段です。

【二の重】焼き物・酢の物(メインディッシュ)

二段目の「二の重」は、食事のメインディッシュとなる「焼き物」や、口の中をさっぱりさせる「酢の物」を詰める段です。

ここでは主に「海の幸」が主役となります。海に囲まれた島国である日本において、海の恵みは神様からの贈り物そのものでした。

1. 海老(えび)

おせちの主役とも言える海老は、長い髭と曲がった腰の姿から、「腰が曲がるまで長生きできますように」という長寿の象徴です。また、茹でると鮮やかな赤色になることから、魔除けや晴れやかさを表します。

2. 鯛(たい)の焼き物

「めでたい」の語呂合わせでお馴染みの鯛は、七福神の恵比寿様が抱えている魚でもあり、お祝い事には欠かせません。切り身ではなく尾頭付きで焼くことで、最初から最後まで全うするという意味も込められています。

3. ブリの照り焼き

ブリは成長するにつれて名前が変わる(ワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ)ことから、立身出世を願う「出世魚」として知られています。働き盛りの家族の成功を願って詰められます。

4. 紅白なます

大根と人参を千切りにして酢で和えたなますは、お祝いの水引(みずひき)をイメージしています。根菜のように「根を張る」という意味と、平和を願う意味が込められた、箸休めに欠かせない一品です。

【三の重】煮物・煮しめ(山の幸・家族の絆)

三段目の「三の重」には、たっぷりの煮汁で煮込んだ「煮物(煮しめ)」を詰めます。

ここは「山の幸」が主役です。大地に根を張る根菜類を中心に使い、家族全員が仲良く末長く繁栄するようにという願いが込められています。

1. 筑前煮(煮しめ)

様々な食材を一つの鍋で一緒に煮込むことから、「家族みんなが一つに結ばれる」「仲良く暮らす」という意味があります。それぞれの食材にも個別の意味があります。

  • レンコン:たくさんの穴が空いていることから、「将来の見通しが良い」とされます。
  • 里芋(八つ頭):親芋から小芋がたくさん増えることから、「子宝に恵まれる」「子孫繁栄」を願います。
  • ゴボウ:地中深く根を張る姿から、「家業の土台がしっかりする」「その土地に根付く」という意味があります。
  • 手綱こんにゃく:手綱のような形に結ぶことで、「心を引き締める」「良縁を結ぶ」という意味を持ちます。
  • 昆布巻き:「よろこぶ(喜ぶ)」の語呂合わせであり、「子生(こぶ)」という字を当てて子孫繁栄も願います。

三の重は茶色い料理が多くなりがちですが、飾り切りをした人参(ねじり梅)や、緑色の絹さや(あしらい)を添えることで、彩り豊かで温かみのある段に仕上がります。

地域で違う?「祝い肴」のルールと「幻の四段・五段」の中身

ここまでは一般的なルールの解説でしたが、日本は南北に長い国であり、地域によっておせちの中身や文化が異なります。

特に「関東」と「関西」では、おせちの基本となる「祝い肴三種」のラインナップに決定的な違いがあります。また、正式な五段重における「四の重」「五の重」の扱いについても、知っておくと自慢できる深い意味が隠されています。

関東と関西で異なる「一の重」のラインナップ

お正月を迎えるために必須とされる「祝い肴三種」。実は、3つのうちの1つが地域によって入れ替わります。

関東の三種:黒豆・数の子・「田作り」

関東や東日本地域では、前述の通り「田作り(ごまめ)」が入ります。これは江戸時代、肥料としてイワシを使っていた関東農村部の文化が色濃く反映されています。

関西の三種:黒豆・数の子・「たたきごぼう」

一方、関西や西日本地域では、田作りの代わりに「たたきごぼう」が入ります。ごぼうは地中深くに根を張ることから、「家の土台が盤石になる」ことを願う縁起物です。また、ごぼうを叩いて身を開くことから「運を開く(開運)」の意味も込められています。

「黒豆」の見た目にも違いがある?

同じ「黒豆」でも、仕上げ方に地域差があります。
関東では、あえて少しシワが寄るように煮て、「シワが寄るまで長生きできるように」と願います。対して関西では、シワが寄らないようにふっくらと丸く煮上げ、「シワが寄らないほど、いつまでも若々しく元気に」という不老長寿の願いを込めます。どちらも長寿を願う気持ちは同じですが、表現方法が真逆なのが面白いポイントです。

忌み数を避ける「与の重(よのじゅう)」の存在

正式な五段重の場合、四段目の重箱を「四の重」とは呼びません。

日本では古くから「四」という数字が「死」を連想させる忌み数(いみかず)として避けられてきました。そのため、おせち料理では「与の重(よのじゅう)」という当て字を使います。「与」には「与える(福を授かる)」というポジティブな意味が含まれています。

この「与の重」には、日持ちのする酢の物や和え物を詰めるのが一般的です。三段重の場合は二の重に入れられることが多い「紅白なます」や「菊花かぶ」などが、五段重ではこの段に入ります。さっぱりとした料理で箸休めをし、次の料理へ備える役割を持っています。

空っぽの「五の重(控えの重)」が持つ深い哲学

そして、最も謎めいているのが一番下の「五の重」です。なんと、ここには何も詰めずに空っぽの状態にしておくのが正式な作法です。

「せっかくの重箱なのに、なぜ?」と思われるかもしれませんが、これには日本人の奥ゆかしい精神性が込められています。これを「控えの重」と呼びます。

満杯の状態は、それ以上何も入らないことを意味します。あえて空っぽの場所を作っておくことで、「今はまだ完全ではない。これからもっと福が入ってくる余地がある」という、未来への希望と発展を表現しているのです。
「来年は、この重箱がいっぱいになるくらい実りある一年になりますように」という願いを込めた、日本独特の美しい「余白の美」と言えるでしょう。

※地域や家庭によっては、五の重に家族の好物や予備の料理を入れる場合もありますが、本来の意味を知っておくと、お正月の会話がより深まるはずです。

美しく見せる!重箱への「詰め方」の種類とマナー

各段に入れる料理が決まったら、次はいよいよ重箱への「詰め込み」です。

適当に隙間を埋めるだけでは、せっかくの料理が台無しになりかねません。おせち料理には、見た目を美しくし、さらに縁起を担ぐための伝統的な「詰め方の型」が存在します。また、お正月の食卓で使う「祝い箸」にも、実はやってはいけないタブーがあることをご存知でしょうか。

ここでは、初心者でも実践できる詰め方のテクニックと、お正月に恥をかかないための正しいマナーをご紹介します。

市松(いちまつ)・手綱(たづな)・末広(すえひろ)の詰め方

重箱の形や料理の種類に合わせて、いくつかの詰め方を使い分けると、プロのような仕上がりになります。代表的な4つのパターンを覚えておきましょう。

1. 市松詰め(いちまつづめ)

重箱の中を「田の字」や9等分の正方形に区切り、異なる色の料理を交互に配置する詰め方です。江戸時代の歌舞伎役者・佐野川市松が袴の柄に使ったことから名付けられました。色が交互になることでモダンで整然とした印象を与えます。紅白かまぼこや、テリーヌなどの洋風おせちにも適しています。

2. 手綱詰め(たづなづめ)

重箱の対角線に対して斜めに列を作り、料理を平行に並べていく詰め方です。かまぼこや伊達巻など、同じ高さ・形に切り揃えられる食材に向いています。斜めのラインが強調されることで、重箱の中に動きとリズムが生まれ、スタイリッシュな見た目になります。

3. 末広詰め(すえひろづめ)

重箱の中央にメインとなる料理(海老や丸い器に入れたいくら等)を置き、そこから放射状に広がるように料理を詰める方法です。「末広がり」という縁起の良い言葉通り、未来への展望が開けることを願う詰め方です。煮物などの形が不揃いな料理も、この方法ならバランスよく収まります。

4. 段取り詰め(だんどりづめ)

重箱を横に3段、または4段に区切り、それぞれの列に料理を一列ずつ横並びに詰める、最もオーソドックスな方法です。シンプルですが、きっちりと整列するため上品な印象になります。

また、料理と料理の仕切りに「葉蘭(バラン)」や「南天の葉」などの「あしらい(かいしき)」を使うのも重要です。南天には「難を転ずる」という意味があり、防腐作用もあるため、彩りと実用性を兼ね備えた名脇役と言えます。

食べる順番に決まりはある?おせちの正しいマナー

おせち料理をいただく際にも、古くからの作法があります。

食べる順番の基本

基本的には、コース料理の流れと同じく「一の重(祝い肴)」→「二の重(焼き物)」→「三の重(煮物)」の順に箸をつけるのが正式とされています。

最初にお屠蘇(おとそ)で新年を祝い、一の重の「祝い肴三種」を頂いてから、他の料理へと進むのがスマートです。とはいえ、家族だけの気楽な席であれば、そこまで厳格にする必要はありません。大切なのは、作ってくれた人や食材への感謝の気持ちです。

「祝い箸」のNGマナー

お正月には、両端が細くなっている「祝い箸」を使います。これには「神人共食(しんじんきょうしょく)」という意味があります。

片方は人間(自分)が使い、もう片方は神様が使うために細くなっています。そのため、以下のような使い方はマナー違反となります。

  • 「逆さ箸」はNG:取り分ける時に、自分が使っていないほう(持ち手側)をひっくり返して使うのはタブーです。神様が使う側を汚してしまうことになるからです。取り分けには、専用の取り箸を用意するのが正解です。
  • 折れるのは縁起が悪い:祝い箸は丈夫な柳の木で作られています。「家内喜(やなぎ)」とも書かれ、お正月に箸が折れるのを避けるためです。

まとめ:各段の意味を知ることで、おせち料理はもっと美味しくなる

おせち料理の一の重、二の重、三の重には、それぞれ「前菜」「メイン」「煮物」という役割があり、詰められる食材一つひとつに「家族の健康」「繁栄」「平和」を願う深い意味が込められていました。

ただ豪華な料理を並べただけのものではなく、先人たちが長い歴史の中で紡いできた「祈りの結晶」とも言えるのがおせち料理です。

今年はぜひ、重箱の蓋を開ける前に「これはどんな願いが込められているのかな?」と家族で話し合ってみてください。意味を知って食べる黒豆や海老は、きっと例年以上に味わい深く、心に残るお正月の記憶となるはずです。

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